同じ100mmの曲げ寸法でも、JIS B 0408のA級なら±0.3mm、C級なら±1.5mm——等級ひとつで、許される誤差は5倍変わります。それでは、図面に公差の指示がまったくない場合、板金加工品はどの精度で仕上がってくるのでしょうか。この記事では、公差指示がない図面の実務上の扱いである「一般公差(普通公差)」の考え方とJIS B 0408の公差表を整理し、曲げで±0.2〜0.4mmという当社現場の実測目安、公差を合わせにくいケースまで解説します。
図面に公差指示がないとき、板金は「一般公差」で加工される
一般公差(普通公差)とは、図面上で個別に公差を記入していない寸法に対して、一括で適用する公差のことです。設計者が全寸法に公差を書き込むのは現実的でないため、「個別指示のない寸法はこの基準で」という共通ルールとして機能しています。図面の表題欄や注記に「指示なき公差はJIS B 0408 B級による」のように記載するのが正式な形です。
では、その記載すらない図面はどうなるのでしょうか。実務では、加工者が一般公差の等級を目安に加工します。当社でも、公差指示のない図面は一般公差を基準に加工するのが標準の運用です。ただし「どの等級で見るか」の認識が発注者と合っていないと、検収時のトラブルにつながりかねません。板金加工の依頼の流れでも紹介しているとおり、重要寸法がある場合は見積り段階で共有いただくのが確実です。
なお一般公差の規格は加工方法ごとに分かれており、切削など機械加工にはJIS B 0405(普通公差—削り加工寸法)が、板金・プレス加工にはJIS B 0408が使われます。板金加工の基礎解説とあわせて押さえておきたい規格です。
JIS B 0408とは|金属プレス加工品の普通寸法公差
JIS B 0408:1991「金属プレス加工品の普通寸法公差」は、プレス加工品の寸法精度の目安を定めた規格です。加工の種類によって「打抜き」と「曲げ及び絞り」の2つの公差表に分かれ、それぞれA級・B級・C級の3等級が規定されています。
正式な適用対象は金属プレス加工品ですが、レーザー切断とベンダー曲げによる板金加工でも、寸法精度の共通言語としてこの規格を準用するのが業界の慣行です。板金の見積り・検査基準として広く通用します。

打抜き(外形・穴位置)の公差表
外形の切断寸法や穴の寸法に適用される表です。寸法が大きくなるほど、また等級が緩くなるほど公差幅が広がります。
| 基準寸法の区分(mm) | A級 | B級 | C級 |
|---|---|---|---|
| 6以下 | ±0.05 | ±0.1 | ±0.3 |
| 6を超え30以下 | ±0.1 | ±0.2 | ±0.5 |
| 30を超え120以下 | ±0.15 | ±0.3 | ±0.8 |
| 120を超え400以下 | ±0.2 | ±0.5 | ±1.2 |
| 400を超え1000以下 | ±0.3 | ±0.8 | ±2 |
| 1000を超え2000以下 | ±0.5 | ±1.2 | ±3 |
現在の板金加工では外形をレーザーで切断するのが主流で、切断そのものの精度は安定して確保しやすい工程です。レーザー切断の板厚と精度の解説で紹介しているとおり、外形・穴位置はこの表のA〜B級相当で収まるケースがほとんどです。
曲げ・絞りの公差表
曲げ加工後の寸法に適用される表です。同じ寸法区分でも、打抜きに比べて公差幅が2〜3倍に広がっている点に注目してください。
| 基準寸法の区分(mm) | A級 | B級 | C級 |
|---|---|---|---|
| 6以下 | ±0.1 | ±0.3 | ±0.5 |
| 6を超え30以下 | ±0.2 | ±0.5 | ±1 |
| 30を超え120以下 | ±0.3 | ±0.8 | ±1.5 |
| 120を超え400以下 | ±0.5 | ±1.2 | ±2.5 |
| 400を超え1000以下 | ±0.8 | ±2 | ±4 |
| 1000を超え2000以下 | ±1.2 | ±3 | ±6 |
公差幅が広い理由は、曲げにはスプリングバック(曲げ後に材料が弾性で戻る現象)や板厚のばらつきなど、誤差要因が多いためです。規格自体が「曲げは打抜きほど精度が出ない」ことを織り込んだ作りになっています。
等級の使い分けと図面への書き方
A級が最も厳しく、C級が最も緩い等級です。一般的な板金部品であればB級を基準とし、組付け上シビアな部品はA級、外装カバーなど寸法要求の緩い部品はC級、という使い分けが目安になります。図面に指示する際は「JIS B 0408-B」のように規格番号と等級を記載し、打抜きと曲げで異なる等級を適用する場合はその旨を明記します。
板金加工で安定して出せる寸法精度の目安
規格の数値と、現場で実際に出せる精度は別の話です。当社の現場の実感では、曲げ寸法で安定して出せる精度は±0.2〜0.4mmが目安です。これは板厚・サイズ・形状によって変わる数字ですが、JIS B 0408の曲げ公差表でいえばおおむねA級〜B級に相当します。

曲げ精度を左右する要因は複数あります。代表的なのがスプリングバックで、材質や板厚、曲げ角度によって戻り量が変わるため、金型の選定と補正の経験値が仕上がりを左右します。加えて、曲げ前の展開寸法の計算精度や、素材そのものの板厚公差も累積誤差の要因です。対策の詳細は曲げ加工の割れ・スプリングバック対策で解説しています。
また、材質によっても事情は変わります。アルミはステンレスや鉄に比べて柔らかく傷が付きやすい分、取り扱いに注意が必要です。アルミ部品の精度についてはアルミ精密板金の公差・寸法精度で詳しく整理しています。
公差を合わせるのが難しいケース
一般公差どおりに仕上げにくい形状・工程もあります。事前に知っておくと、図面指示や納期設定の失敗を防げます。
代表例が溶接を伴う構造物です。溶接は局所的に材料を溶かして接合するため、冷える過程で必ず熱収縮が起こり、製品が引っ張られて歪みます。当社の現場でも、溶接後の歪みがある製品は公差を合わせるのが難しい場合があるというのが率直な実感です。歪み取り(矯正)の工程を挟んで追い込みますが、単品の曲げ部品と同じ感覚の公差を溶接組立品の全体寸法に指示すると、無理が生じやすくなります。溶接方法による入熱の違いはTIG・MIG・CO2溶接の使い分けを参考にしてください。
薄板の大物も難所です。t1.0mm以下の薄板は、サイズが大きくなると自重で変形するほど剛性が低く、ステンレス薄板加工のコツで紹介した歪み対策が欠かせません。実例としてはt1.0アルミ装置カバーのTIG溶接事例のように、入熱を抑えた溶接と矯正の組み合わせで対応しています。
こうしたケースでは、公差が必要な箇所を溶接部から離す、溶接後に基準面を仕上げるなど、設計段階の工夫が効きます。板金設計からの相談体制を整えているため、構想段階でご相談いただければ歪みを見込んだ形状をご提案できます。
手直しを防ぐ公差指示のポイント
発注側・加工側の双方にとって理想的なのは、「機能上必要な箇所だけ個別公差を指示し、残りは一般公差に任せる」図面です。全寸法に厳しい公差を付けると、検査工数が膨らみコストと納期に跳ね返ります。公差設定とコストの関係は板金加工のコストダウン設計で詳しく解説しています。
具体的には、次の3点を押さえれば十分です。第一に、表題欄に「指示なき公差はJIS B 0408 ○級」と明記する。第二に、はめ合い部や組付け基準となる寸法にだけ数値公差を入れる。第三に、溶接組立品は「単品の公差」と「組立後の全体公差」を分けて考える。この3点が揃った図面は、見積りも加工も迷いなく進みます。
実際、当社では公差の認識違いによる手直しはほとんど発生していません。図面で判断が付かない箇所を見積り段階で確認し、基準を合わせてから加工に入る運用を徹底しているためです。公差の書き方に迷う段階の図面やポンチ絵でも構いませんので、お問い合わせフォームからお送りください。必要な公差の入れ方からご提案します。